一式戦闘機 「隼」 研究所 The Japanes Army Type 1 Fighter Hayabusa (Ki-43 Oscar) Research Labo.
八九式固定機関銃甲 Type89 Impeerial Japanes Army aircraft Machine Guns

手持ち資料(オリジナル版)「八九式固定機関銃甲(乙)取扱法」より 


















































































































































































■八九式固定機関銃について

 繰り返しになるのですが、八九式固定機関銃についてはイギリスのビッカース社MkU機関銃のライセンスを昭和二年に製造権を購入して国産化したものです。もともと構造が簡単で故障が少ないMkT機関銃の性格を引き継いでいますので、国産化されても優秀として評価の高い機関銃でした。

 この機関銃は一式戦闘機「隼」に装備された他、二式戦闘機「鍾馗」、三式戦闘機「飛燕」にも装備されました。こんなマメ鉄砲を重戦や中戦にもと驚かれた方も多いとは思うのですが、当時13.7mm(ホ103)や20mm(二十粍翼内機関砲)の装備は量産体制の不足から(計画レベルで何万丁となりました)割りと潤沢にあった本機銃を使用せざる得なかったのです。

 なお、本章は当時のオリジナル資料「八九式固定機関銃甲(乙)取扱法」および「機関銃(砲)取扱法(陸軍航空機)」「武装作業(一式戦闘機)」、「一式戦闘機取扱法(一型)」を参照してまとめております。
 


■総説

 八九式固定機関銃甲(乙)は航空機用固定機関銃であり、発射の際に生じる反動ガス圧により銃身をブローバック(後退)させ銃尾機関及び装弾機関に運動を与えてた後、復座バネの弾力により銃身を復座すると同時に装填・閉鎖を自動で行うものです。

 また、この銃は飛行機に固定装備することについて便利な形状をし、プロペラ回転圏内に射撃するために必要な銃架に装着し、機体に装備した発射発動機並びに引き金装置により発射管制が可能な銃となります。

 この機関銃の甲と称するものは右装備架台を使用して小槓桿、大槓桿を尾筒右側面に設置したものであって、乙と称するものについては右装備架台を使用して小槓桿、大槓桿を尾筒左側面に設置したものとなります。戦記もので「甲銃(砲)からあるいは乙銃(砲)により」との記述については各々右の銃からあるいは左の銃からとなりますので、スペック的な相違ということではなく、槓桿の設置及び銃の取付位置による呼び名となります。

 また、上図にもあるように、八九式固定機関銃には高速用装置と常速用装置がありますが、これは受圧板バネの装脱並びに駐鏈の交換によって発射速度を高速並びに常速の二種に変換することができますが、射撃の実施にあたっては教育等特別の場合以外は高速に設定することが一般的となります。

 なお、本銃には予備銃身が付属となります。
 

手持資料(オリジナル版)Japanese Aircraft Perf.&Charac. by T.A.I.C.



■重要緒元

区分 数値 摘要
銃の全体重量 12.5kg 甲銃装填架0.8kg
乙銃装填架1.0kg
上記のように甲・乙では0.2kgの差があります
実包100発(クリップ共重量) 3.270kg
口径 7.7mm
初速 820m/秒
腔綫
旋条つまり線条であり、ライフルマーク)
右回転4條 ビ式巨型改修のものは左線条5條
発射速度 高速駐鏈 約1,100発
常速駐鏈 約800発



■構造
 銃は銃身、被筒、銃尾機関、大槓桿、装填架、付属品及びこれらの付属品で構成されます。

 (1) 銃身及び付属品
区分 数量 備考
銃身 1 緊定ナット1
付属品 受圧板 1
受圧板バネ

 (2) 被筒
区分 数量 備考
被筒 1 蓋(小ねじ共)1銃身保定環
(小ねじ2共)1
旋回止1駐子(座バネ割ピン共)1
付属品 ガス筒 1

 (3) 尾筒及び付属品
区分 数量 備考
銃身 1 緊定ナット1
付属品 小槓桿駐子 1
前方蓋板 1
後方蓋板 1
塞板 1
有軸塞板 1
床尾 1

(4) 銃尾機関
区分 数量 備考
遊底 蓋栓 1 當(当)金(駐栓共)1
遊臂 1 軸(割ピン共)1
遊頭槓桿 左右各々1
遊頭 1 保莢子(「バネ」、「バネ」蓋共1
引き金 1 軸1
逆鉤 1 軸1
撃莖 1
撃莖バネ 1
安全子 1 バネ1、軸1
連結桿 1 ナット1、体軸(駐栓共)1
曲軸 1 連結停止1
滑走板 1 遊頭支持バネ1
1 遊頭支持バネ1
復座バネ 1
復座バネ前方駐鉤 1
常速駐鉤 1 軸1、鏈(甲、乙止軸共)1、使用しないものは予備袋に収納すること
高速駐鉤 1
規制螺子 1
小槓桿 1

 (5) 装弾機関
区分 数量 備考
装填架体 1 実包通路付板1、実包止付板1
装弾子座 1
装弾子前バネ 1 軸1
装弾子後バネ 1
上臂 1
下臂 1
碍子前 1
碍子後 1 杷1、軸1
碍子バネ 1
轉子 1 「乙」銃のみ付属



■射撃の要領

 単発射撃を行うには先ず大槓桿を操作して第1実包を装填備の位置に送り遊頭に保持して、小槓桿を引き第1実包を薬室に装填した後、引き金を引きます。この時、第1実包の発射により銃身及び銃尾機関は後退し、第1実包の排莢して閉鎖するとともに遊頭は第2実包を保持し発射停止します。以降は小槓桿を操作することにより、単発射撃を実施することができます。
 単発射撃から連発射撃に移行する場合には小槓桿の代わりに大槓桿を引くことで可能になります。



■取扱上の注意

 (1) 機関銃の機関部は各部連動して初めて完全な機能を維持できますので、単に一部品に生じた故障といえども直ちに銃の機能を障害し、遂にその寿命を短縮することになりますので、そのため、銃の性能並びに機能に精通しその取扱いを最も慎重にしなくてはなりません。

 (2) 部品に故障を生じた時は仮に微細であってもこれを見逃すことなく直ちにその原因を精査し、手入れ交換もしくは修理を行い、各部に生じた反起は初期の段階で除去しなくてはなりません。

 (3) 分解もしくは結合は徐々に行い、決して急いではなりません。また、結合に際しては泥土砂塵の付着がないことを確かめ、適度に脂油をほどこす必要があります。

 (4) 遊底装着しないとき、もしくは遊底を装着している場合でも、必要以外に小槓桿を操作しないようにして下さい。遊底装着していないときには連結桿頭部を破損し、遊底を装着している時は遊頭上昇に際して保莢子が装填架に激突して相互の打痕又反起を生じます。したがって、機能点検においては努めて模擬弾を挿入して、いたずらに空撃をしないように注意して下さい。

 (5) 遊底を取り外している時、遊頭が上昇の極限にないときには撃発を行ってはなりません。又、結合している時、あるいは射撃後に撃莖を発射位置として設定しておく必要があります。

 (6) 銃を格納する場合は復座バネを緩めておくこと。

 (7) 銃に付属する銃身、予備銃身及び空砲銃身には、固有番号と同一の数字を打刻しこれを銃身の合番号としている。したがって、部隊において廃品を補充した場合にはこれに合番号及び使用区分(甲または乙)を打刻する必要があります。

 (8) 予備部品は良く銃に適合することを確認しておく必要があります。

 (9) 性能の点検、教育その他のために模擬弾を使用する場合は、変形破損しないように注意すること。



■射撃実施上注意する事項

 (1) 機関銃装着の取付部は無理なく自然に装着することが必要です。尾筒は薄い側板を鋲締した箱であるため、無理したときは尾筒の捩れを起こすことになります。又、前方蓋板体軸の緊度過度になっている場合も機関部に捩れを起こし、後退不良または閉鎖不良の原因となることがあります。

 (2) 地上射撃においては放熱装置があまり機能しないため、一回の連続発射弾数をなるべく少なくし、銃身の加熱を衰損を予防しなくてはなりません。約250発の連続発射にて銃身はあめ色になりますので、最大150発以内に止めるようにしなくてはなりません。

 (3) 装填するには保弾帯の第1実包に碍子頭を通過させた後、大槓桿を操作するものとします。大槓桿は後方に停止するまで十分に旋回させた後、閉鎖を助ける方向に力を加えしつつ活発に手を離さなくてはなりません。そうでないと、閉鎖時の振動により小槓桿の半閉鎖が発生する場合があります。

 (4) 装填はなるべく空中において行い、又、着陸の際には空中に残弾を薬室内より除去することで危険予防が行えます。着陸後故障排除を行う場合には、実包装填の有無を確かめた後、作業を開始しなくてはなりません。

■極寒時の取扱上の注意
 (1) 極寒時において射撃を行う場合には、機関部の油凍結し機能を害し又、破損することがあるため、その温度に合わせて適宜塗油の減少するかあるいは軽く塗油を拭除くするか、あるいは適当な不凍油を使用して下さい。

 (2) 塗油は拭き除く程度であって絶対に油を拭い去るものではありません。遊底及び送弾機能を害さず、かつ磨耗損耗を起こさない範囲で拭って下さい。凝固した油が部品隅々、及び角に膠着しない程度に若干の油分を残しておくように注意が必要です。

 (3) 不凍油として下記のような油を使用して下さい。配合にあたっては実用限界気温に注意して下さい。
  @ スピンドル油
  A 冷凍機油と石油を混合したもの
  B ハリス油と石油を混合したもの

 (4) 復座バネ張力を若干増加することが良い場合もあります。その程度は状況によりって一定としませんが、約6kgまで増加して機能を発揮した例があります。

 (5) 弾薬を温暖な室内に保存して置いて使用することも良いでしょう。

 (6) 極寒期飛行機を野外繋留する場合には、夜間機関部内に湿気が侵入し凍結するために、必ず遊底を外して室内に保管して、出動前に尾筒内外の水分を除去して手入れした後、遊底結合することが望ましいでしょう。

 (7) 発動機を余熱する場合にあっても、水蒸気の機関部に侵入凍結が起こりうるため(6)のような注意が必要となります。











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